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トーマスクック 倒産 – ドイツ政府 損失を補塡!

投稿日:2020年1月12日 更新日:

トーマスクック 倒産 - ドイツ政府 損失を補塡!

世界で一番古い旅行会社 トーマスクック が倒産した。

英国を拠点に欧州中にネットワークを持つ会社だけに、その影響は大きかった。

予約客の旅行は水泡と記した。

ドイツはこうした事態に備えて法整備していたが、いざ会社が倒産するとその法律は役立たずだった。

一体、何がまずかったのだろう。

世界で一番古い旅行主催者

これが最後だろうから旅行業界のパイオニア、世界で一番古い旅行主催者であるトーマスクック(英)について、少し解説しておこう。

トーマスクックとは19世紀初頭にイギリスで生まれ、宗教関係の仕事に従事していたイギリス人だ。

参照 : Thomas Cook

 

あるとき彼が500人の信者の旅行を企画したのがきっかけで、宗教関係者の旅行の御用達となっていった。

世界に先駆け19世紀半ばにナイル川クルーズを企画するなど、企業精神旺盛な起業家だった。

20世紀になると息子と一緒に正式にトーマスクック & 息子 という会社を設立。

さらには世界に先駆けて、フライトチケットの販売を始めた。

現在の旅行主催者が行っている事を最初にやったのがこの会社だ。

業界初という言葉はそれだけではない。

ドイツ人が大好きな

“Pauschalreise”(パッケージ旅行)、

フライトとホテルがパッケージになっている休暇旅行を発案したのも、トーマスクック だった。

何がまずかったの?

時代の流れと共に、人々の好みも変わるものだ。

しかし大企業はタンカーのようなもので、そう簡単に方向転換できるものではない。

とりわけ100年以上も存続する会社では。

若手の優秀な社員が、

「会社をこうしないと危ない!」

と警告しても上司は、

「10年早い。」

と全くとりあわない。

これまで100年以上もうまく行っていたのだ。

2、3年、うまく行っていないだけで、どうしてその商法を急に変える必要がある?

会社に入ったばかりの若造に何がわかる?

名だたる大企業が倒産するケースは、ほぼこのケース。

日本航空もまさにその典型で、何を言っても上層部には馬の耳に念仏だった。

トーマスクック もこの典型で、客の興味の変遷に気がつくのが遅れた。

インターネット

20世紀ならまだインターネットもなく、旅行先のホテルやフライトを自分で予約するなんて不可能。

情報収集さえ難しかった。

ところがインターネットの発達で、自宅に居ながら旅行先のホテルを自分で選び、予約することが可能になった。

ホテルどころか、フライトチケットから電車、バス、現地ツアーのチケットまでネットで買えてしまう。

こうして次第に自分で旅行を計画する人が増え始めた。

そして情報が増えるにつれ、半年も前からパッケージ旅行を予約するのではなく、旅行したくなったら空いてるホテルやフライトを探す人も増えてきた。

安さ一番!

そんな人々が重視するのは、目的地よりも安さ。

トーマスクック はイギリス人のハワイ、スペインやポルトガルのホテルを抑えた。

しかしトルコやギリシャと比べると、価格で勝負できなかった。

ここで英国の脱EU /”Brexit”が決まった。

https://pfad.tech/blog/brexit-fack-boris/

脱EUで3年も揉めたお陰でイギリスポンドの価値が下がり、海外旅行が値上がりした。

同時に景気の後退で、高い海外旅行に行こうというイギリス国民の数が、がっくり減った。

トーマスクック 倒産

トーマスクック 倒産

2019年の秋からトーマス クックは金巡りが難しくなってきた。

ホテルや空港、航空会社からの請求書が山積みになっていたが、これを払う金がなかった。

ここで白馬に載って登場したのが中国人だった。

倒産寸前の会社に10億ユーロも払うという。

トーマスクック自体は倒産寸前だが、その子会社には利益を出している会社も多い。

さらにトーマスクックといば、西欧人なら誰でも知っている。

一方、中国人が独自の旅行会社「長江公司」で宣伝しても、誰も知らない。

欧州市場に進出するにはまさに絶好の機会だ。

そこで借金で首が回らないトーマス クックを買収して、採算の取れない業務は売却、利益の出る事業だけに集中すればいい。

流石は中国人。

イギリス政府 財政援助を拒否

しかし中国人投資家か提示した額では、トーマスクックが抱えている借金の半分ほどしか払えない。

「残りはイギリス政府に払ってもらおう。」

と考えていた。

会社が倒産すれば、数千の職場が失われ、海外にいるイギリス人旅行者は帰国する術を無くす。

これは政府も避けたい筈だ。

そこでトーマスクックは急場をしのぐため、1億2200万ポンドの財政支援を申請した。

しかし!

イギリス運輸省は、急場をしのぐだけでも1億2500万ポンドは必要で、さらにそれだけでは終わりではない事をお見通し。

トーマスクックには17億ポンドの借金があるのだ。

中国人投資家はまずは少額の財政支援で運輸省をこの作戦に誘い込み、イギリス政府がコミット(救済案に賛成)したら、倒産で脅しながら第二、第三の財政支援を要求する計画だった。

経営が傾いた日本航空のケースでは、まさにこの方法が採用され、日本政府は税金をおしげもなくつぎ込んだ。

イギリス政府はそんな魂胆をすっかりお見通し。

保守党政府はトーマスクック救済に税金を投入することを拒否した。

こうしてトーマスクックの倒産が決まった。

トーマスクック 倒産 ドイツ国内の子会社

欧州で最大のマーケットなので、ドイツ国内にはトーマス クックの子会社が幾つかる。

その代表的なものは、以下の通り。

  1. トーマス クック旅行(主催者)
  2. 航空会社 Condor
  3. ネカーマン旅行(主催者)
  4. その他多数

親会社の倒産後、子会社は当初、

「従来通り営業します。」

と声明を出したが、次々に倒産申告をする羽目になった。

するとすでに旅行中のドイツ人、これから休暇旅行を予約していたドイツ人、折角1年間働いて貯めたお金が、パーになってしまった。

しかしまさにそんな事態を予想して、旅行者が倒産の際に貧乏くじをひく事を阻止する法令があった。

https://pfad.tech/blog/pauschalreise/

旅行保険証 / Reisesicherungsschein

かって大手の旅行主催者が倒産、1000人を超える旅行者が休暇先で路頭に迷った。

これから休暇旅行を予約していた人は、休暇がキャンセルになった。

ドイツ人の大好きな休暇旅行でこんなことが二度と繰り返されてはならぬと、1994年、民法が改正された。

法改正後、パッケージ旅行を主催する旅行主催者は倒産に備えて、保険に加入することが義務化された。

旅行代理店、あるいはインターネットでもパッケージ旅行に申し込みすると、

“Reisesicherungsschein”(旅行保険証)

が送付されてくる。

万が一旅行主催者が倒産した場合は、保険会社が保障されている金額を支払う。

その後も度々、航空会社や旅行主催者が倒産したが、この保険のお陰で被害は最小限度に抑えることができた。

旅行保険証の欠点

この法律は1994年に整備されたもので、2019年には時代遅れになっていた。

理由。

保険の補償額が1億100万ユーロまでに限られていたのだ。

大きな旅行主催者が倒産した際には、とてもカバーできる保証額ではなかった。

そしてトーマスクックが倒産すると、休暇旅行中の14万人のドイツ人の帰国便がキャンセルされてしまった。

このドイツ人をドイツに連れ帰るだけで、保険で保証されている額のほぼ半分が消えた。

しかし休暇を予約しており、これから出発する予定(だった)ドイツ人の数はその数倍。

トーマスクック倒産により、ドイツ国内で発生する被害総額は3億~5億ユーロと見積もられている。

結果、ほとんどの旅行者が(保険に入っていたのに)泣き寝入りをすることになると危惧された。

トーマスクック 倒産 – ドイツ政府 損失を補塡!

すると11月になって、

「保険が足らない分は、政府が損出を補填します。」

と言い出した!

あのケチな政府が個人の損出を補填するなんぞ、ドイツ生活が長い著者でも聞いたことがない。

エア ベルリンが倒産したときだって、政府は個人の損出の補填をしなかった。

https://pfad.tech/blog/wirtschaft/

一体、なんでドイツ政府は個人の損出を補填する気になったのだろう?

ドイツ政府の公式発表

ドイツ政府はこの”milde Gabe”(賽銭)を

「数万人の消費者が払った旅行代金の払い戻しを求めて、裁判所に訴えることになる。これは消費者にとって、そして裁判所にとっても大きな負担になるから。」

と説明した。

この説明は安倍内閣の「桜の会」の説明と同じ。

だったらエア ベルリンやゲルマニア(格安航空会社です。)の倒産でも、国が補填することができた。

実際の理由は別のところにある。

ドイツ政府補填の本当の理由 – EU-Pauschalreiserichtlinie

その理由は、

“EU-Pauschalreiserichtlinie”

というEU議会の議決が原因だ。

 

この法律はEU加盟国にパッケージ旅行で旅行主催者が倒産した場合に、客を守る法整備をすることを命じるもの。

1990年に決議され、2015年に時代に合わせて改正された。

そう、まさにドイツ政府が怠ってきた法律の改正をEUはちゃんと行い、加盟国に対して必要な法整備をすることを命じていた。

しかしドイツ政府は4年も時間があったのに、法整備(改正)を怠ってきた。

その結果 トーマスクック倒産により、数十万人のドイツ人が被害に遭うことになった。

この事実がテレビやラジオで報道されれば、支持率ががっくり下がる。

その前に、「ご安心ください。政府が損出を補填ます。」とやったわけだ。

そう、結局は自身の為で、国民を救うという高貴な動機ではない。

ドイツ政府が法整備をしなかった理由

では、何故、ドイツ政府は法整備をしなかったのだろう。

面倒だったから?

いえ、違います。

忘れていたから?

いえ、違います。

保険に入るには、保険料を払う必要があります。

ドイツ政府がEU議会の取り込めに従って法整備をした場合、ドイツの旅行会社は何百億ユーロという保険金を払い込む必要があります。

これが会社の業績を好転せさないのは自明の理。

多額の税金を払う大企業の意向を受け入て、一向に法整備をしなかったんです。

これに懲りて、ドイツ政府が法整備をするのはほぼ確実です。

また同じような事態が発生したら、今度は言い訳できません。

でもドイツの旅行会社は、これに大反対しています。

子会社の奪い合い

親会社の倒産により、黒字を出していたドイツの子会社も倒産に追い込まれた。

しかしこれらの会社、

  • トーマス クック(独)
  • コンドーア(航空会社)
  • ネカーマン(旅行会社)

はドイツでは絶対の知名度を誇る。これを手に入れれば、明日から客の予約が期待できる。

こうして子会社の奪い合いが始まった。

旅行代理店 トーマス クック

まず旅行代理店のトーマスクック は、ドイツのデパート カールシュタットが落札した。

ご存じない方のために解説しておくと、カールシュタット自体も一度倒産した。

その後オーストリアの大富豪、ベンコー氏が運営する投資会社、”Signa”に買収された。

ベンコー氏はドイツ残る最後のデパート カオフ フォーフ/”Kaufhof”も買収してデパート王となった。

https://pfad.tech/blog/warehhaus_ag/

カールシュタットには独自の旅行代理店があり、いつも黒字だっだ。

めざといオーストリア人は、この千載一遇の機会に事業の拡大を目指した。あとは寡占局の認可を待つのみ。

航空会社 コンドーア

ルフトハンザ、エア フランス、それにライアンエアーまで注目していたのが、航空会社のコンドーア。

この航空会社も黒字経営だったので、買収できれば一気に会社の売り上げ、収益が改善する。

コンドーアは当初、

「親会社がなくても、そのまま創業できる。」

と豪語していたが、やはり倒産申告を強いられた。

しかし裁判所から会社更生法の適用を受けながら、自社の主導による更生を許可され、売却の憂き目を避けることができた。

親会社倒産により必要なくなった職場を閉鎖、余剰人員を解雇して、再生を目指している。

LOT コンドーア買収を白紙に戻す!

コンドーアはポーランドの航空会社、LOT への売却が決まった。

LOT は初めてドイツ国内市場への進出となり、この買収に大きな期待をしていた。

しかし買収のサインをする前にコロナウイルスが蔓延、世界中の航空会社は存続の危機に陥った。

LOT も例外ではなく、コンドーアの買収オファーを白紙に戻した。

これによりコンドーアの存続は厳しくなった。

おそらく来年になるであろうウイルス終焉後の需要の回復まで、お金がもつかどうか大いに疑問だ。

ネッカーマン & その他

かってドイツの有名な起業家がゼロから一代で築いた大帝国、ネカーマン。

経営者が会社に居座りすぎて、経営の方針転換ができず一代で倒産した。

その名前だけ残っているのが、ネカーマン旅行だ。

旅行代理店網は買い手が見つからず、閉鎖される。

しかしその名前とホームページのアドレスは、トルコの旅行主催者が落札した。

今後、トルコの旅行主催者はドイツのパートナーに、「お客を送ってください。」とお願いしなくても、自分で客を集めて、自社の旅行を売れることになる。

もっともホームページは今、消えています。復活するのかしらん?

参照 : neckermann-reisen

Öger Tours

トルコはドイツ人の大好きな休暇旅行先の一つ。

トルコでの休暇旅行を専門に売る旅行主催者、”Öger Tours”もドイツ トーマスクック の傘下にあった。

こちらの旅行会社は丸ごと、同じトルコの旅行主催に買い上げされた。

お陰で社員はクリスマスの前に職を失う憂き目を避けることができた。

持ち主が変わったので、ホームページは現在更新中です。

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執筆者:

nishi

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